社会保険労務士法人 HMパートナーズ

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誹謗中傷


会社の誹謗中傷を「2チャンネル」に書き込んだため、解雇した。

※本事例は、判例等をもとに脚色して作成しています。法知識が正確に伝わるようできる限り努力していますが、実際の事件にはさまざまな要素が複雑に絡んできます。同様の判断が類似の案件に必ず下されるとは限りませんので、ご注意下さい。

事件の経緯

K社は、不動産の売買・賃貸及び仲介、土地建物の総合管理、リゾートマンションの賃貸及び仲介を営む会社であり、平成14年2月25日に東京証券取引所第二部に上場したN社の子会社です。

Aさんは、平成4年7月7日にK社に採用され、平成5年7月より親会社のN社に出向となり、建設部に所属していました。

そして平成14年1月12日、K社はAさんに対して解雇を表明しました。

理由は次の通りです。

解雇理由1 勤務怠慢

平成12年春ころから、会社の電話をほとんど用いることなく、会社の仕事をせず、もっぱら社外で自分の携帯を使って社外の複数の人物と仕事以外のことで連絡を取り合ったり、無断外出を繰り返していたこと。

 

解雇理由2 勤務怠慢

平成12年春頃から、就業時間中であるにもかかわらず、営業のために外出するといって、喫茶店でスポーツ新聞を読んだり、昼間から営業しているカラオケ店でカラオケの練習をしたりして、仕事をさぼっていたこと。

 

 解雇理由3 上司に対する悪口

かねてからN社のB専務取締役に反感や憎悪の念を抱いており、B専務からの指示・命令を無視していたが、これを解決するために、平成13年7月29日(日曜日)、N社社長の乙山太郎さんの自宅を訪問し、B専務の悪口を並べ立てた上、「Bを切るか俺を切るか、同時にクビにするかしてくれ。」などと詰問したこと。

 

 解雇理由4 日報への虚偽記載

平成13年7月2日から7月31日までの日報に、実在しない会社名を掲げるなどして、22ヶ所にわたる虚偽記載をしたこと。

 

 解雇理由5 無断早退等

かねてから部下として当然要求される上司への報告・連絡・相談を怠っていたが、平成13年7月30日以降はその傾向が激しくなり、しばしば無断で早退したり、毎週金曜日に行われる営業会議に欠席したりし、会議に出席してもほとんど発言せず、上司からの質問にも答えなかったこと。

 

 解雇理由6 誹謗中傷等(1)

少なくとも平成13年9月上旬頃から、自分が接触するほとんどの社員に対してN社を誹謗中傷したり、社会的評価を低下させるような言動を行ったこと。

特にN社の東証二部上場事務を担当しているS監査法人を訪れ、担当公認会計士に対して「N社には株式を上場する資格がない。」などと述べ、「平成のタコ部屋・株式上場会社・N社」と題する文書を手渡したこと。

 

 解雇理由7 2ちゃんねるの書き込みと同僚に対する不適切な発言

2ちゃんねるの掲示板に書き込まれた、N社を批判する文書を印刷したものを社内に持ち込み、「『史上最悪の管理会社N社について裁判などの情報を求める』とか『N社さん、会社が金儲けを考えるのは当然です。しかしやり方があると思います。』と書いてあるぞ。」などと大声で読み上げたこと。

そして、「おい、みんな、サラリーマンはそんなにがんばって仕事をする必要はない。がんばって仕事をしても、適当に仕事をしたふりをしていても給料はもらえる。してもしなくても給料はもらえるんだ。」などと発言し、従業員の勤労意欲を失わせるように仕向けたこと。

しかも、そもそもこれらの2ちゃんねるへの書き込みを行ったのも、Aさん自身であること。

 

 解雇理由8 上場承認の妨害(1)

<平成13年11月28日、S監査法人に対し「井平太郎」名義の封書で、「N社の悪徳商法について」と題して、以下のような記述のある、2ちゃんねるの掲示板を印刷したものを送付した。

「史上最悪の管理会社N社について。裁判情報求む。」

「そもそも、この会社って学生時代に作ったビル清掃会社が、ニッチで成り上がったところだからね。そのとき世話になったT信託銀行に頭が上がらないので、降りてくるジジイ多いよ~。つーか、乙山社長イタ過ぎ!全社員の前で『給料上げない』なんて言い放つ人だからね。社員の士気は落ちる一方だよ・・・レベルもね。あ、私は元社員です。アコギな商売と待遇の悪さに嫌気がさして辞めました。」

「いや、故・E氏は社長ではなかったんですよ。一昔前のN社は、E氏が頭の総合管理事業部と乙山氏が頭の総合建設事業部に分かれていて、それぞれが代表取締役だったんです(社長はいなかった)。 ま、実際は管理部門で設けていたのでE氏が社長同然でした。E氏が急逝すると、乙山氏が統括して社長に就任しました。株式の公開を早めたり、くだらない社内規則が増えたりして、社内の雰囲気は悪くなりましたね。社長秘書室なんて作ってみたり、わざわざ受付嬢を雇ってみたり・・・本社ビルを改装したときも、大理石なんか貼ってみたりして、社員もあきれてましたよ。元が儲からない工務店の社長みたいな人なので、見栄張りたいのでしょう。」

「相場の2倍3倍4倍で工事やってれば、常識的な人間ならクレームつけるだろう?」

 

 解雇理由9 上場承認の妨害(2)

Aさんが、N社が上場企業として問題があると考えていたならば、まず上場担当責任者であるD常務に進言し、改善を求めるべきであるにもかかわらず、平成13年12月6日、上場に関する業務を行っていたS監査法人の担当公認会計士に対し、「株式公開する会社は、最低限満たしておかなければならない5つの項目があると思います。」などと記載した「公開質問について(お願い)」と題する文書を送付したこと。

 

 解雇理由10 恐喝未遂の教唆

平成14年2月21日、S同志塾塾頭Gと称する者が、Aさんからの依頼を受け、N社を来訪した。

Gは、対応した総務部長と総務課長に対し、N社の時間外賃金不払の違法性を指摘する文書を社長に手渡すよう求めるとともに、「穏便に解決を図った方がいいのではないか。社長と自分との話合いの機会を設けて欲しい。自分は退職者30名分の委任状を預かっている。また、会社にとって困る文書も持っている。」などと述べた。

またGは、N社が社長名義で部室店長に宛てた「東証二部上場決定に当って」という文書及び人事部長名義で部店長に宛てた「ご連絡」という社内文書を示しながら、「私は株主だが、代表訴訟は費用のわりにはメリットがない。」などと述べ、あたかも株主代表訴訟の対象となる事実を知っているが現段階ではまだ訴訟を提起しないというような素振りを見せた。

Aさんは、この当時N社に対して約140万円の時間外賃金の支払を請求していたから、Gのいう「穏便な解決」とは、この時間外賃金を指すと思われる。

Gの言辞は、明らかに暴力団系列の総会屋まがいの人物が用いる脅迫的文言であり、Aさんは恐喝未遂を教唆したというべきである。

 

 解雇理由11 誹謗中傷(2)

平成14年3月18日、乙山社長の妻宛てに、「N社社員有志一同」名義の封筒で、「極悪!N社だぁ」と題する、以下の記載のある2ちゃんねるの掲示板を印刷したものを送付した。

「会社四季報によると、N社の平均年齢は36.0歳で、年収は449万円。ウソはいかんよウソは。これだけの給料もらっている社員なんてイネェ。」

「N社の工事代金は相場の2倍なので、工事比率も2倍になりますが、それが何か?」

「こら、乙山!まだバレバレのボッタクリ工事やってんのか?だから、1階の商談ルームがガラガラなんだよ!」

「いえ、中卒扱いの無名の3流大学生を大量に採用してますので、大卒が半分くらいです。ただし、大卒の上限が地方の2流国立大学ですから、正確には社員の半分が中卒レベルが実態かと思われますが、それが何か?」

「この会社に将来があるとはどうしても思えないよな。日本でやっていけないからといって、東南アジアで悪さするのはやめてほしいけどね。」

「○○大学のような5流アホ大学しか出ていませんが、常務です。それが何か?」

 

 解雇理由12 名誉毀損等の依頼

平成14年5月中旬頃、自称ルポライターのJと名乗る人物に依頼し、週刊誌などに誹謗中傷したり社会的・経済的評価を低下させる記事を掲載するとN社を脅し、役員を畏怖・困惑させるか、実際に掲載してN社の社会的・経済的評価を低下させるよう依頼した。

Jは、5月28日頃、N社に電話で取材を申し込んだが、拒否されたため、翌29日と6月6日の2回にわたり、N社に取材項目を記載した文書をファクシミリで送付した。

これに対して、Aさんは次のように主張しています。

「S監査法人の担当公認会計士と面談した際に、『平成のタコ部屋・株式上場会社・N社』と題する文書を交付したことは認めます。ただ、これは、N社で当時横行していた就業規則違反、劣悪な労働条件、賃金の不明確性、時間外手当の不支給といった客観的な事実を告発したにすぎません。」

「また、公認会計士に対して『公開質問について(お願い)』と題する文章を郵送したことは認めるが、こちらもN社の職場では労働法規違反が横行し、これに不満を持つ多くの従業員や元従業員がいたため、私がそのような人たちと話し合った結果、N社が株式を上場する資格があるのかということに疑問を持ち、公開を担当したS監査法人の担当者なら説明してくれるだろうと思っただけです。」

「その他のことは、全て否認します。」

さて、この訴えの結末は...

労働者側の勝ち:労働条件改善のため相応の合理性を持つ

【主 旨】

各解雇理由についての判断

○勤務怠慢(職務中の私用電話)

証人の供述やB専務取締役の陳述書によると、「Aさんが勤務時間中に携帯電話で会社の仕事以外のことを話しているところを目撃したことがあり、部下からの報告も受けている。」との記載がある。

しかしながら、会話の時期、相手方、内容が特定されておらず、具体的に乏しいうえ、自己の体験に基づかない伝聞のものが含まれているから、勤務怠慢の事実を認めることができない。

○勤務怠慢(職務中にカラオケをしたり、営業に行くといって喫茶店でスポーツ新聞を読むなどして仕事をさぼったりしていること)

Aさんが、平成9年夏に2回、午前11時30分頃から午後1時すぎころまで、新宿区歌舞伎町にある行きつけの飲食店で昼食を取った際、カラオケをした事実が認められる。

ただ、B専務取締役の陳述書には「Aさんが喫茶店で時間をつぶしているところを目撃したことがあり、部下からも報告を受けている。」との記載があるが、行動の時期、場所等が特定されておらず、具体性に乏しいうえ、客観的裏付けを欠くから、採用することができない。

○上司に対する悪口

K社の親会社であり、Aさんが出向し勤務しているN社の社長、乙山太郎さんの自宅を訪問し、B専務の悪口を並べ立てた上、「Bを切るか俺を切るか、同時にクビにするかしてくれ。」などと詰問したことが認められる。

○日報への虚偽記載

一部不明な企業があるものの、一部企業は実在しており、かつAさんが訪問した形跡が確認された。そのため、Aさんが日報に虚偽を記載したという事実は認められない。

○無断早退等

時期、回数、程度などについて具体性に乏しく、客観的な裏づけを欠くうえ、K社がAさんに注意・指導をした形跡もないことに照らし、K社の主張は採用できない。

○会社に対する誹謗中傷等

Aさんは、N社の従業員に対する時間外賃金の不払いを問題視し、平成13年5月から新宿労政事務所に、割増賃金不払いの件について新宿労働基準監督署に対して、調査を行うよう申し入れた。

その上で、N社の東証二部上場事務を担当しているS監査法人を訪れ、担当公認会計士に対して「N社には株式を上場する資格がない。」などと述べ、「平成のタコ部屋・株式上場会社・N社」と題する過激な表現を用いた文書を手渡したことが認めれられるが、これはN社が従業員に長時間の労働を強いたり、差別的待遇や退職強要が横行したりしているなどとして、労働条件が劣悪であると主張するためであった。

○2ちゃんねるの書き込みと同僚に対する不適切な発言について

K社は、N社に対する批判が書き込まれた2ちゃんねるの掲示板を印刷した文書を、Aさんが職場において大声で読み上げたと主張するが、このような事実を認めるに足りる証拠はない。

K社の陳述書には、「おい、みんな、サラリーマンはそんなにがんばって仕事をする必要はない。がんばって仕事をしても、適当に仕事をしたふりをしていても給料はもらえる。してもしなくても給料はもらえるんだ。」などとAさんが発言したとあるが、客観的裏づけがないから、そのまま採用することができない。

仮にAさんがそのような発言をしたとしても、いわゆる平社員にすぎないAさんの愚痴の域を出るものではなく、他の勤勉な従業員の勤労意欲を失わせるに足りるものとは認められない。

○上場承認の妨害について

何者かが、S監査法人に対し「井平太郎」名義の封書で、「N社の悪徳商法について」と題して、2ちゃんねるの掲示板を印刷したものを送付した。

K社は、2ちゃんねるの掲示板に書き込みをしたのはAさんであると主張するが、このような事実を認めるに足りる証拠はない。

また、2ちゃんねるの掲示板は、誰でも閲覧・書き込みができるので、上記のような文書を送付することができるのは、Aさんに限らない。

○恐喝未遂の教唆について

S同志塾塾頭Gと称する者が持参した、N社の時間外賃金不払の違法性を指摘する文書は、Aさんが自らの発案により作成したものであり、GがAさんのことを良く知っているかのような話をしていたことから言えば、Gはこの文書をAさんから入手したように見える。

しかしAさんは、この文書をN社の対応に不満を持つ、約30名の従業員や元従業員に送付し賛同を呼びかけたと供述している。この供述が事実に反するという証拠もないので、Gにこの文書を送付できるのは、Aさんしかいないとは言い切れないし、Gも誰からどのような経緯でこの文書を取得したかについては言及していない。

そのため、AさんがGに恐喝などの違法行為を依頼した事実を認めるに足りる証拠はない。

○名誉毀損等の依頼について

自称ルポライターのJと名乗る人物のN社に対する取材依頼は、係争中の裁判の件などについて依頼されたものにすぎず、N社の社会的評価や信用を低下させることを目的としたものとは認められない。

また、AさんがJに依頼したという事実を認めるに足りる、客観的な証拠もない。

監査法人への文書交付は、従業員として不適切な行為

N社の上場に関する事務をしていた公認会計士に対する文書の交付などの行為は、単なる情報提供の程度にとどまらず、公認会計士としての業務遂行を著しく困惑させるものであるうえ、監査法人はN社の労働条件について関与すべき立場にないことに照らし合わせると、従業員として不適切な行為と言わざるをえない。

Aさんが交付した文書は、過激な表現によりN社の経営姿勢を厳しく非難するものであり、役員から諌められても同様の行為を継続したことからすると、Aさんの行為は、企業秩序維持の観点からも問題があると言わざるをえない。

一連の行為は、N社の労働条件の改善が目的と見られ、相応の合理性を有するものと認められ、解雇は無効

しかしAさんは、当時新宿労政事務所や新宿労働基準監督署にそれぞれ相談したり、調査を申し入れたりしており、監査法人に対する行為はこのような行動の一環として行われたものと認められる。

そして、N社はその後労働基準監督署の調査を受け、従業員の労働時間の管理の方法や時間外賃金の支払について改善指導を受けたこともあわせると、Aさんの行為は、主に労働基準法の遵守や労働条件の改善を目的としたものと認められ、その方法、態様が相当とはいえないことを考慮しても、相応の合理性を有するものと認められる。

これらを総合すると、今件の解雇は客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当として是認することはできないから、解雇権を濫用したものとして無効である。

 

(参考判例)

日立物流事件

 

解説

労働者にもやりすぎな面があったように思えます。 (推測の域を出ませんが)

企業側にとってみれば、解雇理由の裏づけとなる証拠を用意していなかったことや、ここに至るまでに始末書を取ったり、何らかの(やや軽微な)懲戒処分を下す等の段階を踏んでいなかったことが悔やまれますが、何と言っても不当な時間外労働を野放しにしていたことが自分の首を絞めたということでしょう。

 

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