社会保険労務士法人 HMパートナーズ
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#5 ファースト・コンタクト
さて、そうこうするうちに、ユニオンのSさんと会って話をする日になりました。先にA社に行き、Kさんと確認をします。
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岩沢:Kさん、今日どういう対応をするのか、あらためて確認をしましょう。今日のわれわれは、まず先方の言いたいことを聞いたうえで、「そちらが何をおっしゃりたいのかは理解しましたが、そちらの要求に対しては一切承服しかねます。どうしてもというからわざわざ時間を作りましたが、具体的なことは然るべき場所以外ではお話ししません。」といことだけ言って突っぱねましょう。われわれの主張=今まとめつつあるものの内容に触れる必要すらないと思います。よろしいでしょうか?
Kさん:はい、わかりました。
岩沢:基本的には先方に対しては私が対応しますので、安心してください。では、参りましょう。
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指定した喫茶店に向かいます。待つこと15分ほど、ようやくそれらしい人物がやってきました。。。
想像したよりも若い、30代後半くらいでしょうか。もう少し年配の人が出てくるかと思っていました。細身で中背、少々神経質そうな顔をしています。
Sさん:すみません、遅くなりました。○○○○ユニオンのSと申します。
Kさん:株式会社AのKと申します。
岩沢:社会保険労務士の岩沢と申します。
名刺交換を済ませます。Sさんはちょっと怪訝そうな顔をしています。社労士が同席することは予想していないかったのかもしれません。
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Sさん:今日はお忙しいところお時間をいただき、ありがとうございます。先日ファックスをお送りしてお電話でお話ししましたように、Yさんのことでお話しがあります。
(と、やおらカバンからノートを取り出すSさん。すぐに話を切り出します。)
Sさん:Yさんはこう言っています。今年の1月にA社に入社しました。契約内容については契約書を結んでいませんが、雇用期間の定めはなしです。9時から17時、うち休憩45分の週5日勤務。雇用保険は未加入。勤務地はA社2号店。職務はフロアとキッチン業務全般。
(一方的に話を始めて、我に正義ありって顔をしています。)
Sさん:Yさんは誠実かつ一生懸命働いていました。ところが6月末になって、突然店長から1ヶ月更新の契約書を提示されました。その内容は期間の定めのない契約から有期雇用への変更、労働時間の短縮、賃金の低下と不利益変更に当たります。Yさんは合意を拒みました。すると取締役を通じて、同意しない場合は働かせないとの意思表示がなされ、契約書にサインしないと働けなくなるという錯誤に陥り、契約書にサインしてしまいました。そして7月の半ば、会社は理由の説明もなく7月末日付の雇い止めを通告。Yさんは弁護士や労働基準監督署に相談したところ、不当な雇い止めと指摘されました。
(黙って聞いていれば、いい気になって。。。)
Sさん:こちらの要求ですが、まずは不当解雇の撤回を求めます。7月の契約書については、今契約しなければ働けなくなるという錯誤に陥らせたうえでサインを強要させました。そのため、本契約は無効です。また契約書の書面において「契約を更新しない」とはせず「更新しない場合がありえる」としていて、これであれば常識的に相当な理由がない限り雇用継続するべきです。そして、Yさん本人の業務態度には問題がなく、会社の経営状態や業務上の理由等の雇い止めの相当な理由が示されていません。雇い止めはYさんのみであって、他の従業員は雇用を継続し、人選の理由もありません。会社の一連の行為は、不利益変更と有期雇用を利用した事実上の解雇であり、不当である。
(あまりの言いようを聞いて、私は怒りに声を押さえるのを苦労しました。)
Sさん:また、本来受給できるはずであった雇用保険給付相当額の補償額を求めます。Yさんは雇用保険の加入資格があるにもかかわらず、会社は法の義務に違反し加入手続きを行っていないため、Yさんは1月末から6月末までの約5か月間雇用保険未加入の状態が続きました。そして会社は7月に出勤日数を減らしたため、Yさんは7月に加入資格を失ってしまいました。そのため、Yさんは6ヶ月の雇用保険加入後の雇い止めという「特定受給資格者」の資格を得られませんでした。
岩沢:よくそこまで都合のよいことが言えるものですね!あなたはYさんから一方的に都合の良いことを聞かされているだけでしょう。
Sさん:こちらはYさんからしっかりと事情を聞いているわけですから。
岩沢:どうしても時間を作ってくれということだったので、忙しいKさんにもスケジュールを空けてもらったし、今日はそちらの話を聞くことはしますよ。
Sさん:話を聞く限り、A社の不当な解雇としか思えませんから、われわれの要求に応えていただきたい。
岩沢:私たちは、複数の人間に取材して、今の話と相違する事実をつかんでいます。それは団体交渉の場でしっかりと反論させていただきますから。
Sさん:いや、でもね。。。
その時でした。Kさんの目に光るものが浮かんだのは。
Sさん:。。。
岩沢:あなたにもわかるだろう。この涙の重さが。Kさんは今まで社員に良かれと思って、職場環境を整えたりして一生懸命にやってきた。それを手のひら返して自分に都合のよいことばかり要求して!
Sさん:。。。
岩沢:私はKさんからしっかりと話を聞いた。何か行き違いがあったかもしれないが、Kさんは身勝手な考えで社員をないがしろにするような経営者ではない。この案件が会社の立場からするとどういうものだったのか、それは次回の団体交渉の場で明らかにさせていただきます。
Sさん:わかりました。
岩沢:そちらの主張したことについては、こちらの見解をお話しさせていただきます。今日のお話しは、文章にまとめて送っていただけませんか?
Sさん:わかりました。メールでお送りします。
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この日はこんなやりとりをして、Sさんと別れました。
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Kさん:すみません、つい取り乱してしまって。
岩沢:無理もありません。本当にひどい言い草です。
Kさん:あれだけがんばって社員のみんなにも尽くしてきたのに、なんであんな言われ方をされなきゃいけないのかと思って。
岩沢:本当ですね。この悔しさは、団体交渉で晴らしましょう。引き続き、準備のご協力をお願いします。
Kさん:はい、わかりました!
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そしてその1週間後、いよいよ団体交渉の日がやってきました。
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